宝石が見つかりましたか?

たとえば親が子どもに読み聞かせたり、大人がひとり静かに読んだりしてみる楽しみも、童話にはあるかと思います。親が子どもに与える宝石のように、そして、ひとりでそっと心の宝石箱を開けて眺めてみるように・・・。そんな願いを込めての童話の宝石箱です。

 

 

童話「モモちゃんと不思議な虹の花」

ママの買い物についていったももちゃんが見つけた花の種はすてきな花を咲かせ、願いを叶えてくれます。虹の花が叶えてくれる願いは七つ。ももちゃんは欲ばって全部を願うのでしょうか?そして、誰のためにどんな願いを申し出るのでしょうか?虹の花はどうなるのでしょう?

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モモちゃんと不思議な虹の花

童話の宝石箱の虹

ももちゃんは、今年の五月を待って待って待ちわびています。
「早く芽が出て花が咲かないかなあ、もう待ちきれなくなりそう・・・」
毎日ベランダの鉢にお水を上げています。どうしたのでしょうか?

それは去年の春休みのことでした。四月にママと一緒にお花屋さんへ行った時に、見つけた花の種でした。
その日、ママから離れてお店の奥まで一人で入ってしまったももちゃんは、たった一つしかない不思議な小さな袋をみつけたのでした。お花の種のようですが、袋には何も書かれていませんでした。
うす緑色の袋の中の種は、何のお花の種なのでしょう。おもしろそうなので、ももちゃんはママに頼んで買ってもらうことにしたのです。お店のおじさんは首をかしげながら
「こんな花の種袋は、うちの店にあったかなあ?」
と、ひとり言を言いながら売ってくれました。
おうちのベランダでママのまねをして鉢に植えることにしました。
袋を開けてみるとたった一粒だけ、お豆の大きさの白いまんまるの種が出てきました。
ももちゃんは生まれて初めてのガーデニングに張り切りました。
ママがベランダに出ると自分も出て、ママのように鉢の土をながめました。
ママもそんなももちゃんを微笑みながら
「楽しみね。がんばって」
と、嬉しそうでした。

そして五月になりました。鉢の土の中から小さな芽が出てきました。
でも、そんな時ママが大慌てで実家に出かけなければならなくなりました。
おばあちゃんが病気になり、倒れたのです。ママはももちゃんに真剣な顔で言いました。
「ももちゃん、ママはおばあちゃんの家にしばらく泊まることになったの。
おばあちゃんの病気が治って帰ってくるまでパパとベランダのお花をお願いね。」
ももちゃんはお留守番をやる気十分でした。
小さな会社の社長のパパは、倒産寸前でしたが・・・ももちゃんには何も出来ないし、わからないけどお花については自信が出てきていたからです。
学校を帰るとまずベランダでママのたくさんの花と自分のお花の様子を見るのが日課になっていました。
ママの言いつけを守って一週間後、ももちゃんの植えた不思議な種の芽がすくすく伸びてきて黄色い蕾をつけました。
次の日には、もうひとつ赤い蕾も同じ茎に付きました。
「ふ~~ん、色の違う花が咲くのかしら?」
ももちゃんの期待がふくらみます。
さらに次の日には、また一つ増えて青い蕾まで付いていました。
でも、最初の蕾たちの花は開きませんでした。
ももちゃんは、ランドセルを背負ったままでベランダのお花を見守りました。
ついに紫色、橙色、桃色、最後に緑色と全部で七つの蕾が付きました。
なんと、七色の虹のような蕾です。
次の日、学校の帰り道にお花の名前を考えました。
「そうだわ。七色だから『虹の花』にしよう~っと。」
急いでベランダに出ると、黄色い蕾が開いていました。まんまるい花になっています。
「うわあ~咲いた咲いた~」
大喜びのももちゃんです。

その時です!
「こんにちは~!」
丸いお花の中から声がしました。驚いてお花に近づいて中をのぞくと
「ももちゃん、私はあなたのつけた名前の通り『虹の花』です。
私は長い間、太陽の下で花を咲かせてくれる、花の好きな子、元気で優しい子供を待っていました。
ありがとう~!」
甘い香りを放ちながら話します。ビックリしているももちゃんは何も言えなくなってしまいました。
それでも、低い声でがんばり
「いいえ、どういたしまして。咲いてくれてありがとう」
と、答えることが出来ました。ももちゃんが答えるとすぐに赤い花も
「こちらこそありがとう~! ももちゃんに種を見つけてもらったおかげです」
そう言いながら開き始めました。すぐ後につづいて、青、紫、橙、桃、緑の花も順序に開きながら
「ありがとう~!」
と、言うのです。
どうしたらいいのかと困っているももちゃんに青い花が言いました。
「ももちゃん。私達はお礼に、ももちゃんの願いを『七つ』かなえてあげますよ。七つ願ってください。」
「え~っ? どうしよう、どうしよう」
ももちゃんはあせるばかり。
突然、何かを願うように!と言われても、何も思いつきません。
すると今度は紫色の花が
「どうぞ、ゆっくり考えてくださいね」
と言うのです。それで少し落ち着いてきたももちゃんは、じっくり考えてみました。
まず、頭に浮かんだのは病気のおばあちゃんのことでした。
次には、よくわからないけれどパパのお仕事のことでした。
そしてママが一日も早くお家に帰ってきてくれることでした。
『これで三つだわ。あとは、学校の給食でわたしの嫌いなピーマンが出ないことだけど。でも友達のキキちゃんはピーマンの肉詰めが好きだから、お願いしたらキキちゃんがかわいそうだから、それはできない。う~~ん、やっぱり三つだけだわ。それに、願いをかなえてもらっていいのかどうかも心配だもん』
と、思います。
ももちゃんはためらいながら
「あのう~、七つじゃなくてもいいでしょうか?」
と、尋ねます。
すると橙色の花が
「もちろんですよ。いくつでもかまいません。でも、今願うことだけなのです。後になってからでは、かなえることは出来ないのでよろしいですね?」
と、答えます。
ももちゃんは一つずつ
『虹の花』に向かって願いを話し出しました。
「一つ、おばあちゃんの病気がなおりますように!」
「二つ、パパの会社を助けてください!」
そして最後の三つ目のママについて話そうとした時、ももちゃんはあることに気が付きました。
『そうだわ! わたし、とても大切なことを忘れるところだったわ』。
それで、ママのことを迷いましたが、
『おばあちゃんが治れば帰って来られる。それまで、わたしががまんすればいいのだから』
と、ママについてのお願いをやめる決心をします。
ももちゃんが願う三つ目のこととは・・・
「あの~三つ目のお願いは、虹の花さん! あなたが毎年太陽の下で元気に咲いてくれることです。いいでしょうか?」
その時『虹の花』の七色がいっせいに美しいコーラスのような声で花首を揺らしながら答えました。
「ありがとう! ありがとう~ももちゃん。」
そして、桃色の花が嬉しそうに
「ももちゃん、やっぱりあなたは欲張らない優しい子供でしたね。七つの願いのうち、三つだけ。しかも自分の欲しい物は願わずに、家族のことばかり願いました。そして、わたし達『虹の花』のことも願ってくれましたね~」
と、言のです。
最後に緑色の花がゆっくりと語ります。
「ももちゃんの願い三つ全部、必ずかなうでしょう! 来年の五月にまたお会いしましょうね。それまで、さようなら~」
そう言うと七色の花『虹の花』は何も話さなくなってしまいました。

夜、寝る前に、ももちゃんはまた『虹の花』を見たくなりました。
「おやすみなさい!」
を言いたかったのです。そっとベランダに出てみました。すると、何ということでしょう!
『虹の花』のお花七つがぜんぶ散っていました。ももちゃんは知りませんでしたが、一日だけのお花だったのです。虹のように短い命の花だったのでした。
ももちゃんが泣きそうになりかがむと、部屋の明かりに照らされたベランダに白い種が一つだけ落ちています。
ももちゃんはそれを大事に拾いながら、涙を流しました。でも、
『この種さえあれば、来年の五月にまた会えるから・・・』
と、しっかり種をにぎりしめてベッドに入り眠りました。

翌日、学校から帰ってみるとママがにこにこしながら、ももちゃんを迎えてくれました。
「おばあちゃんが急に元気になったのよ。お留守番ありがとうね」
ママを見たももちゃんは、かばんを背負ったまま、ママの腕の中に飛び込み嬉しくて声を出して泣きました。
夜、ももちゃんがお風呂から出ると、パパがにこにこしながら帰ってきました。
「いやあ~驚いたよ。やっぱり神様はいるんだねぇ。会社は持ちこたえることになったよ」
ママに話している声が聞こえました。
その夜、ももちゃんは『虹の花』の白い種を自分の机の引き出しの中から大事に大事に手に取り
「願いをかなえてくれて、ありがとう~虹の花さん!」
と、感謝の言葉を何度も言ってぐっすり眠りました。

それから一年後、ももちゃんは今年の四月に撒(ま)いた一粒の『虹の花』の白い種にていねいに水をやっています。こうして、ももちゃんは花が咲く五月を待って待って待ちわびていたのです。
もうすぐ、あの七色の優しい声の『虹の花』と会えるのです。
たった一日だけでも太陽の下で嬉しそうに咲く、すてきな『虹の花』が早く見たくてたまりません。
そして、ついに
「あっ! 芽が出てきた~! わ~、もうすぐ会えるわ。」
ベランダで喜んでいるももちゃんのとびきり幸せな声が、五月の今日!聞こえてきました。