優しい心温かな童話

一昔前に、読まれた童話のような・・・心に優しく温かくなるような内容で綴った童話集です。なにもかもが高速、利便、効率という最近の日本には、不釣合いかもしれませんが・・・。 ちょっとの時間でも、ゆったり!ほっこり!気持ちが癒されるようにとの願いから生まれた五つの童話です。最後の童話はやや長めですが、最後までお読みくださいますように。

 

 

童話「涙の宝石箱」

どんな境遇であっても、他の人々への思いやりは溢れさせることが出来ることを証する少女の童話です。同情心や哀れみで流す涙がぜんぶ宝石になっていきます。でも、その宝石を自分ではお金には換えられません。少女はどうするのでしょうか?そして、少女のお陰で、富むことの出来た村の人々は?


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涙の宝石箱

童話の宝石箱の涙の宝石

ある村に、たいへ心の優しい一人の少女がいました。親も兄弟もなく一人ぼっちです。でも、自分の身の上では決して泣きませんでした。いつも、村の人に同情しては・・他の人のために涙を流すのでした。
ある日、不思議なことが起きました。一人暮しの村のおばあちゃんが病気になったことで、泣いていた少女の涙が頬を伝い小さな手のひらに落ちた時、宝石に変わったのです。
「ホロホロ」涙が「コロリン!」
と、次々に真珠(しんじゅ)になったのです。
少女は、驚きましたがそれを拾い集め小さな木箱にしまい込みました。
ある時は、子犬が道端で死んでいるのをみつけ、涙を流すと・・その涙は
「ホロホロコロリン!」
と、乳色のオパールになりました。
何日かして、言い争いをしている村人をながめて涙を流すと
「ホロホロコロリン!」
と、今度はキラキラのダイヤモンドに変わりました。少女はあわてて拾い、いつの間にか宝石箱は・・あふれるほどになりました。
少女は、自分のパンのために真珠を一個お金に換えて使おうと思いました。そのつもりで手に持つと
「トロ~リ」と、涙に戻ってしまいました。自分のためには、使えない宝石だったのです。

でも、それを知った少女は『わたしは、これでいいわ。それより皆に幸せになってほしい』と思い、宝石を貧しい村人にこっそりくばり始めました。
ところが、半分の村人の分が足りませんでした。すると・・・次の朝、村中で宝石を取り合うなぐり合いが生じています。それを悲しんだ少女の目から、大粒の涙が次々に
「ホロホロコロリン!」
と、真っ赤なルビーになりました。それで少女は、急いでそれを残りの村人にこっそり・・くばったので争いはなくなりました。
村人たちは恵まれましたが、少女の貧しさには、だれも気付きません。それでも、少女は宝石箱がいっぱいになると・・また出ていって見つからないように、くばり続けました。

秋の夕暮れ、少女は小さな家へ帰るため急いでいました。寒いので頭をおおうスカーフが欲しい・・と思いましたが、それさえありませんでした。
そこへ、村一番のわんぱく少年サムが現れ、少女をからかいました。サムは村長さんの孫でした。少女は、知らんふりして通り過ぎましたが・・サム少年は、少女をふりかえって眺め、少女の姿がどこかおかしいと、感じました。何が変なのかわからず、サムは宝石の恵みで新しくなった自分の家へ戻りながら、考えました。そして
「そうだ! わかったぞ! 着ている服が、夏のままなんだ~!」
と、ようやく気がつきます。
「あの子はまだ貧乏なんだ。あの子の所には、宝石の恵みが舞い込まなかったんだ。」

サム少年は、家の中から集めたパンとミルクを袋一杯にして抱え、少女の家のドアの前にそっと置きました。
その時
「シクシク、シクシク」
と、静かに少女の泣く声が聞こえました。サムはそっと小窓の方に廻って中をのぞきましたが、驚きのあまり、口が、ぽかーん!と開きました。
何と、少女の流す涙が
「ホロホロコロリン!」
と、輝く緑のエメラルドとなって、床の上に落ちていくではありませんか。サムは口を、ぽかーん!と開けたまま、ドアの前に戻りノックしました。
しばらくして、少女が出て来ましたが、その目に、もう涙はありません。サムは慌てて、ぽかーん!の口を閉じてから言いました。
「う~ん、僕は見たぞ! 君の秘密を。うん、見たんだ。けれど・・うん、でもそれはいいんだ。それよりなぜ君が貧乏なんだ。」
少女は、優しく微笑みながら言いました。
「この宝石は、私が使おうとすると涙に戻っちゃうの。だから自分では使えないのよ。でも私には家族もいないし・・それでいいの。村の皆が幸せになってくれて平和なら嬉しいわ。これ、ありがとう。助かりました。おやすみなさい。」
サムがあげた袋を抱えて少女はドアを閉じました。少年は
『ん~何かがおかしいなあ?』
と、思いながら帰り始めました。でも、何がおかしいのか、わかりませんでした。

少年サムは、散るイチョウの葉に負けないくらい金色に光り始めた星をみつめて、じっと考えていました。
考えると足は止まり・・歩き出すと考えは止まります。考えるのが苦手な少年ですから、こんなにむずかしいことを考えたのは生まれて初めてです。それでも一歩あるいては止まって考えました。
また一歩、あるいては止まりながら十二歩進みました。サムには、涙が
「ホロホロコロリン!」
と、宝石になることは考える前から、わからないので止めました。
やがて
『どうして、あの少女が自分の宝石を使って、洋服や食べ物に出来ないのか? 村の人が皆お金持ちになったのに、少女だけ貧乏でいるのはおかしい』
と、わかったのです。でも、どうしたらいいのかわかりません。それで、また考えようとがんばってみます。
ついに、一つだけ答えが浮かびました。それは
『おじいちゃんに相談しよう!』
でした。サムにとってはこんなにすごい答えも生まれて初めてでしたから
『考えるっていいことなんだなあ!』
と、自分に感心しながら村長おじいちゃんの家へビュンピュー!と走り出します。

孫の話を聞いたおじいちゃんの村長さんは、驚きのあまり両手がパッ!と上がったまま、止まってしまいました。そして、両手を上げたまま言いました。
「誰が、貧しい村人に宝石をくばったのか調べていたのじゃが・・・まさか、あの子だったとは。」
でも、さすがに村長さんです。
「わしに、いい考えがある。まかせなさい」
と、上がった両手を下げながら胸をたたきました。それでも、最後に一言いいました。
「わしの涙も、宝石にならんものかなあ~?」

三日後、晴れた秋の朝、少女の小さな家の前に村人の行列(ぎょうれつ)が出来ていました。窓の外を見た少女の頬は、真っ赤になりました。こんなことは初めてです!いったいどうしたのでしょう。
白い服におひげ姿の村のパン屋さんは、焼きたてのパンを抱えています。お百姓さん夫婦は、野菜や果物を持っています。蝶ネクタイの仕立て屋さんは、可愛いピンクのコートを。太い腕のニコニコ顔の鍛冶屋(かじや)さんは、ストーブを作ってきました。大工のおじさんは、少女の小さな家を修理しようと材木や金づちを持ってきています。靴屋さんも並んでいます。
少女は顔が真っ赤のまま静かにドアを開けて、皆の前に出て行きました。そっと目を上げて村人たちの親しみ深い笑顔を見た時、涙が
「ホロホロコロリン!」
と、水晶(すいしょう)になって足元に何個か落ちました。
突然、村人たちは我さきに!と水晶を拾いはじめたのです。なんということでしょう。
その時、少女の涙はカラッ!と乾いて止まりました。村人の心は変わってなかったのだ・・と思ったのです。
すると、宝石を握りしめていた靴屋のおばさんが、慌てて少女に近寄りほほえんで優しく言いました。
「あんたのために、これで新しいブーツを作って来るからね。」
他の村人も、口々に言いました。
「温かい毛布をこの水晶で買ってきてあげる」
「おいしいチーズを買ってあげる。」
何と、村人達は少女のために宝石を暮らしの品物に変えようとしたのです。
少女の手に宝石が触れてはたいへん!と、あわてて我さきに拾ったのでした。

心の優しい少女の涙の宝石は、心が優しくなった村人たちの親切で、食物や洋服などに換えられて戻ってくるようになりました。
わんぱくサム少年も手伝いました。でも、宝石を握って
『きれいだなあ』
と、考えようものなら足が止まります。でも、考えないで三歩あるくと
『何に交換してくるんだっけ?』
と、忘れてしまいます。
そこで、少女のところへ戻って確かめ、忘れないうちにと、ビュンビュー!走り出して止まらずに、お店へ駆け込むのでした。
でも、そんなサム少年を少女は大好きでした。

秋が終わり、村に初雪がチラチラチラチラと舞い降りる冬になりました。少女の家の屋根にも静かに静かに降っています。少女は、暖かい部屋で小窓の外の砂糖のような雪を見ながら、考えていました。
村中、皆で助け合い仲良しになったことを・・。少女は、嬉しくて胸がいっぱいになりました。
そして、涙が
「ホロホロコロリン!」
と、あふれ出して黄金に輝く大粒の純金(じゅんきん)になりましたと。